本日は、オランダのアムステルダム国立美術館(The Rijiksmuseum)が保有する、レンブラント・ファン・レイン作『夜警』について解説します。
出典 https://www.rijksmuseum.nl/nl/rijksstudio/kunstenaars/rembrandt-van-rijn/objecten#/SK-C-5,0
みなさんは、『夜警(De Nachtwacht)』が通称であることをご存じでしたか?
しかも、実はこの絵、市民隊が昼間の見回りに出発する様子を描いた集団肖像画なのです!
これだけ聞くと、「夜じゃなくて昼間…?」「肖像画…?後ろの人めっちゃ顔隠れてますやん…」と、ますます謎が深まってしまいましたね。
では早速、その謎を解明していきましょう!
『夜警』の基本情報
- 作者 レンブラント・ファン・レイン
- 制作年 1642年
- 技法 油彩・カンヴァス
- サイズ 高さ 379.5cm × 幅 453.5cm
- 保管場所 アムステルダム国立美術館
- ジャンル 集団肖像画
- 美術様式 バロック
画家レンブラント・ファン・レインについて
レンブラントは、「オランダ黄金時代」とも言われる、17世紀オランダの代表的な画家のひとりです。
同時期に活躍した有名な画家に、フランス・ハルス、ヨハネス・フェルメール、ヤーコプ・ファン・ロイスダールなどがいます。
妻サスキアを何よりも愛した画家でしたが、『夜警』の制作中に妻が亡くなってしまい、すっかり元気をなくしてしまったレンブラント。それを象徴するように、『夜警』以降絵画の注文数はどんどん減っていきました。
超大作の『夜警』が、結果的に彼のピークだったと言われることも少なくありません。
『夜警』は、昼間の絵だった?!
前述のとおり、『夜警』は市民隊(火縄銃市民警備隊 “Kloveniersgilde“)が昼間の見回りに出発する様子を描いた集団肖像画です。
ではなぜ、背景が真っ暗闇なのでしょうか。
そもそも、バロック様式は、暗闇の中から人物が浮かび上がるようなドラマチックな描き方が特徴で、基本的に暗い背景の作品が多いです。
とはいえ、『夜警』がこんなにも黒くなってしまった原因は、のちに修正・保存のためニスを繰り返し塗ったから。さらに、当時のニスは質が悪かったと考えられています。
『夜警』という名前が付いたのも、後世の人たちがこの絵を見て「夜の場面に見える」と言ったことがきっかけになりました。
一般市民の「集団肖像画」という概念が生まれた経緯
14世紀以降の「肖像画」というと、画家が直接パトロン(=お金持ちの支援者。 例 メディチ家)から製作依頼を受けたり、王侯貴族が宮廷画家(例 スペイン・ハプスブルク家の宮廷画家ベラスケス)を雇って描かせたりするのが一般的でした。
美術館によく行く人なら分かると思いますが、必ずと言っていいほど、高貴なドレスに豪華なジュエリーを身にまとった王侯貴族たちの肖像画が、重々しい額に飾られているのを目にしますよね。
私たち日本人にはあまり馴染みのない、「これずいぶん場所とってるけど、一体誰?」みたいな…あの方々です。
あれは、当時の王侯貴族たちが、
①国民に自分たちの顔を知らしめるため
②後世への記録
として画家に描かせたものなのです。
しばしば、「実物より多少盛っている」と言われますが、何せ全盛期の姿を後世に残したいわけですから、それは仕方がないことなのかも。
そして、レンブラントが活躍したバロック期のオランダでは、王侯貴族のみならず一般市民が画家に肖像画を描いてもらうのが流行りでした。
その主な理由は、
①16‐17世紀のオランダは、世界中の美術品がアムステルダムに集まったと言われるほど国力が強大で、そのおかげで市民層も富を手にし芸術を享受した
②当時のオランダはプロテスタントであり、宗教画や歴史画に代わるような、より市民生活に密着した世俗的で新しいジャンルが好まれた
ためです。
世界最古のバブル経済として知られる「チューリップバブル」が起こったのも、この時代です。当時のオランダの人々はみな、狂ったようにチューリップに投資していたという記録が残っています。
なかでも『夜警』は、「集団肖像画」というジャンルに分類されます。いわば、現代の「集合写真」のようなものです。
1人1枚では値段が高くつくので、みんなでお金を出し合って集団肖像画を描いてもらうことが多かったようです。
不評だった『夜警』
『夜警』は、今でこそレンブラントの最高傑作と言われていますが、当時は注文主からクレームが来ていたそうです。
なぜなら、真ん中の2人、フランス・バニング・コック隊長(左)とウィレム・ファン・ライデンブルフ副隊長(右)や、その左後ろに描かれている謎の少女ばかりが目立ち、ほかの隊員たちは識別が困難なほどだからです。
せっかくの集合写真も、自分が目をつぶっていたら嫌ですよね。連写して、全員の顔が良いやつを選んでSNSにアップしたい。そんな心情でしょう。
一応、23人の隊員(全員の名前は絵の中に描かれた盾に記載されています)と、謎の少女、そして1匹の犬が描かれていますが、実物を見ても後方はボヤけています。
まとめ:レンブラントはまさにオランダ絵画黄金期を築き上げた画家!
いかがですか。レンブラントはただ有名なだけではなく、かなり個性派の画家というイメージが付いたのではないでしょうか?
レンブラントは、初期は宗教画や神話画といったある意味正統派の絵画から、のちに風俗画や肖像画で名声を博し、さらに『夜警』ような集団肖像画まで描きこなすオールラウンダーだったのです。
彼はまさに時代に合った、というよりむしろ時代を築いた画家であったことが分かります。
彼はこの絵が肖像画だということを忘れてしまうくらい、まるで宗教画や風俗画を描くようにストーリー性を重要視して完成させたのではないかなあ、と私はこの『夜警』のことを勉強して思いました。
自己紹介記事にも書きましたが、鑑賞者である自分もあたかもこの隊員たちの仲間であるかのような臨場感、あるいは演劇の1幕であるかのようなダイナミックさ(筆者は観劇も趣味)が感じられて、やっぱりすごいなあと思います。
みなさんは、どのような感想を持たれましたか?
おまけ:謎の少女は一体誰??
お呼びですの??
発光しているがごとく、やけに目立って描かれているこの少女。いったい誰なのでしょうか。
実はこの少女、実在しない人物なのです。もっと言えば、火縄銃市民警備隊の擬人化です。
絵画の世界では、抽象的な事物を具現化することで暗示する表現技法を、寓意と呼びます。
もう少し、具体的に見てみましょう。
- 死んだ鶏 …火縄銃市民警備隊の象徴(紋章に鶏の爪が描かれていたことから)、あるいは打たれた敵の象徴
- 金色の巾着 …火薬袋
- 肩にかけた火縄銃
このように、少女の存在そのものが、警備隊を表していたのですね。
いつでも見守っていますわ。
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